フィリピンのオフショア開発の特徴

オフショア開発国を検討する際に、コミュニケーションや価格の比較と同時にどの国にするか?という大きな選択が必要となります。欧米と比較してアジアはコストパフォーマンスが良いという印象がありますが、実はそれぞれの国によって価格だけでは語ることができない要素が多くあります。それは言語であったり文化であったり、IT技術の発展レベルであったり様々です。

比較要素の多いオフショア開発国選びですが、少しでもスムーズに検討できるよう、オフショア開発に関する資料などから開発国選びの際に役立つ情報を国ごとにまとめました。

このページでは比較的安価で英語がよく通じるオフショア開発国とされているフィリピンについて、国の基礎知識や特徴、日本語レベル、IT技術レベル、単価相場、メリットやデメリットについて紹介しています。

フィリピンのIT技術レベル

英語が公用語の一つであり、東南アジアの国々の中でも大学進学率が高いフィリピンは、英語が話せるエンジニアが多いことが特徴です。開発やコミュニケーションはほぼ英語で行われるため、英語による先進IT技術の習得も意欲的に行っています。

またIT留学として日本を含む他国から留学生を受け入れるなど、そのIT教育への熱心さが伺えますし、日本政府もフィリピンのIT技術向上への支援を行っています。

ただし基本的に優秀なエンジニアは待遇の良い企業へ流れますので、高い技術レベルの確保は競争になることもあります。

オフショア開発に必要な
コミュニケーションレベル

オフショア開発で成功となるキーポイントは、担当者とのコミュニケーションです。

フィリピンは英語教育が盛んであり、ほかの東南アジアと比べて日本語習得への熱意は低くなりがちです。エンジニアや看護師・介護福祉士を日本へ送り出すという動向もありましたが、日本語試験のハードルが高く、日本語教育への背景は複雑でした。特に中上級者向けの日本語は、大学などの教育機関よりも民間の日本語学校で提供される環境にあり、大学でITも日本語も同時に学ぶという状況ではないようです。

また日本へ語学留学するフィリピン人の学生数は、2019年度の日本語教育機関実態調査によると502人(1.2%)で、就労目的などの在日フィリピン人の多さから比較すると少数です。

参照元:令和元年度 日本語教育機関実態調査、一般財団法人日本語教育振興協会(PDF)(https://www.nisshinkyo.org/article/pdf/overview05.pdf

日本語限定でというよりは、マルチリンガルサイトの開発などで英語を必要とする、もしくは日本側の担当者が英語を得意として英語でコミュニケーションができる場合のオフショア開発に向いていると言えるでしょう。

フィリピンのオフショアで
できる案件や技術

英語に強みのあるフィリピンは、これまでも英語での開発などグローバルな開発実績を多く積んできました。技術面ではインドの後ろに位置しますが、英語という共通点では将来的にもさらに英語での開発実績が増加しそうです。

一方で日本向けのオフショア開発経験はまだ浅く、下流工程なら可能という場合もあるでしょう。もちろん上流工程の可能なエンジニアも存在しますが、それだけの技術力と英語力があるので、英語開発を中心にグローバル企業に雇用されている確率が高くなります。

フィリピンのオフショア
開発の人件費、単価相場

フィリピンの人月単価は以下の通りです。カッコ内の数値は昨年からの上昇率で、単価上昇率が中国に次いで高いことが特徴です。この数字は対日本のオフショア開発に関してのもので、日本から見るとコスト感があまり良くない印象ですが、英語での開発などの実績が求められる英語案件ではもう少しコストパフォーマンスが良くなる可能性があります。

  • プログラマー:33万9,300円(+14.7%)
  • シニアエンジニア:47万8,600円(+25.2%)
  • ブリッジSE:66万6,800円(+21.1%)
  • PM:73万9,600円(+2.0%)

(★引用元:オフショア開発白書2021年版)

フィリピンのオフショア
開発のメリット

フィリピンの強みは英語でのコミュニケーションです。英語による先進技術の取得や欧米企業のオフショア開発の実績も多いので、世界を相手にグローバルな開発ができることがメリットです。多言語サイトや日英サイト、プログラムの開発などに強い割には人件費もそこまで高くありませんので、英語でコミュニケーションができ、英語を必要とする開発案件が多い場合は、十分にメリットを享受できるでしょう。

また時差が1時間だけというのも、リアルタイムでのやり取りには便利です。

フィリピンのオフショア
開発のデメリット

日本向けのオフショア開発経験が浅いので、日本向けの大型案件や複雑な上流工程は実績が乏しいこともあります。日本語でのコミュニケーションを求める場合も、通訳が必要になる場合があるでしょう。またエンジニアは待遇の良い職場を求めますので、欧米の大手企業が多く進出しているフィリピンでは、離職率が高いこともデメリットです。

国民性も日本人とは異なり、仕事よりも家族を優先する文化です。この点を理解していないと予定通りのスケジュール進行ができないので、あらかじめ心構えが必要です。

フィリピンの基礎知識
- 人口、言語、国民性、
政治、治安、時差など

フィリピンの基礎知識

フィリピンの正式国名は、フィリピン共和国(Republic of the Philippines)で、首都はマニラです。7,641の島々からなる面積298,170平方キロメートルの国土に1億903万5,343人が暮らし、マニラの首都圏人口は約1,348万人(2020年フィリピン国勢調査)です。主な民族はマレー系で、他に中国系やスペイン系、そして少数民族がいます。言語は国語がフィリピノ語で、公用語がフィリピノ語と英語、ほかに全部で180以上の言語があります。主な宗教はキリスト教(カトリック他)でASEAN唯一のキリスト教国となっており、ほかに少数でイスラム教などとなっています。

フィリピンの通貨はペソ(Peso)で、フィリピン中央銀行による基準為替レートは1ドル=約51.385ペソ(PHP)(2022年4月8日時点)となっています。

(気候)フィリピンの気候は、熱帯モンスーン気候帯で通年高温多湿ですが、乾期、暑期、雨期があります。雨期は水害が多く、衛生状態が悪化。食中毒や感染性腸炎、デング熱などへの注意が必要です。またそれぞれの島により流行疾病が違います。

(時差)日本との時差は1時間遅れです。日本が正午の時、フィリピンは午前11時ですのでビジネスにおける連絡は取りやすいでしょう。

日本とフィリピンの関係

とても良好な関係にあり、活発な貿易、投資、経済協力関係を保っています。2011年9月には2国間の関係を戦略的パートナーシップとして位置づけました。

在留邦人数は17,753人(2019年10月時点、在留届ベース海外在留邦人数調査統計 2020年版)で、在日フィリピン人数は279,660人(2020年末法務省統計)と、中国、韓国、ベトナムに次いで4位となっています。

公館はマニラに在フィリピン日本国大使館、セブとダバオに領事館があります。

フィリピンの経済

フィリピンの主要産業はビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)産業を含むサービス業、鉱工業、農林水産業(2020年時点)で、GDPは約3,622億米ドル、一人当たりGDPは3,330米ドル(共に2020年、IMF)となっています。経済成長率と物価上昇率はそれぞれ‐9.5%(2020年、IMF)と2.6%(フィリピン国家統計局)でしたが、2021年の経済成長率は5.6%と、新型コロナウイルス感染の影響から抜け出した印象があります。

また日本は輸出入とも主要貿易相手国の一つであり、主要援助国でもあります。

フィリピンの政治体制と治安に
ついて

政体は共和制で、2016年に当時南部のミンダナオ島の市長だったロドリゴ・ドゥテルテが大統領に当選しています。

治安については外務省によると、2020年は前年比で犯罪件数は2割の減少となっていますが、日本と比べて犯罪率は高い状態です。一般市民も登録・許可を得れば合法的に銃の所持・携行ができるので、銃器犯罪の可能性もあることを頭に入れておきましょう。窃盗や強盗、性犯罪のほか、世界でも日本人の殺人事件が多い国で、商売上のトラブルや怨恨などが引き金となるようです。出張や駐在の際は、常に注意を払って行動する必要があります。

参照元:外務省海外安全ホームページ(https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcsafetymeasure_013.html

まとめ

 

英語も公用語であるフィリピンは、英語開発などグローバルなオフショア開発実績が豊富です。その割には人件費も安価であるために、欧米系の大企業が進出して英語での開発に力を入れています。しかし単価の上昇もありますので、英語でのコミュニケーションが可能で日英サイトなど英語が必要とされる開発の場合であれば、メリットがあるかもしれません。

日本語話者はほかの東南アジアと比較すると少なめで、文化も仕事より家族優先ですから、そのあたりをしっかりと理解しておくといいでしょう。

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